about us

身の回りにあるどんなものでも, 生活の中には必ずデザインされたものがあります。
もしくはそう謳われていない「何でもない」ものや,
どのような経緯で作られたのか分からないようなものまで,
全て意匠化(デザイン)を経て形にされています。

amplogはそのような普遍的なデザインに対して
“編集(Edit)”“意匠(Design)”“構成(Compose)”を施すことで,
身の回りにある価値を別の価値として置き換えながら,
多義的な検証を展開していくウェブコンテンツです。

あまり耳慣れない専門的なサブジェクト, 既に知り尽くされたアイデアやコンセプト,
それらをamplogの視点で再構築し,
ジャンルやカテゴリーにとらわれない創造的なコンテンツを展開していきます。

Typography

01 | about Favorite Dutches

見本帳の中の活字
エアハルト書体の原型

October 13, 2014

よく使用する書体とは別の, お気に入りの書体の1つにEhrhardt〈エアハルト〉という少し変わった名前の書体があります。いかにも欧州風といった見慣れない綴りで, 直線にカットされたブラケット部分が特徴的な欧文活字です。あまり名前が知られていないように思いますが(有名な使用例がないからでしょうか…), それでもこの安定感のある骨格を持った書体には, キャズロンやギャラモンにはない, また別のヨーロッパ的な魅力が備わっています。

活字書体の名前にはいくつか規則的なところがあります。例えば設計や制作に携わった人の名前から付けられたものや, 国や地域になぞらえたもの, デザイン的なコンセプトから付けられたものなどは妥当だと思えますが, 同じ名前でも彫刻師が異なる書体や, 大まかな関連性で名前をつけられた書体など, そのあてがわれ方に疑問が残るようなものも少なからずあります。このEhrhardtという活字書体は, その中の1つと言える活字書体です。

その出自についてあまり多くの資料は残っていないのか, 他の有名な活字書体に比べると詳しい情報がありません。17世紀後半に, ドイツのライプツィヒにあるエアハルト鋳造所の活字見本帳で公開されたオランダ活字の, ローマン体とイタリック体を元に1937年から1938年にかけてモノタイプ社が復刻したとありますが, この見本帳に載っている書体の制作者は分かっていません。

おそらくEhrhardtという書体名は, この鋳造所からとられて付けられたのでしょう。エアハルト鋳造所を代表する活字といったふうに聞こえるかもしれませんが, 意味合い的には「エアハルト鋳造所の見本帳にあった, ローマン体とイタリック体の1つをベースに制作された活字」とするのが正確かもしれません。

いつ・どこで・誰の手によって設計され, 鋳造されたものか分からないという書体は, 実はそこまで珍しくはありません。様々な歴史の背景に消えていった活字の足跡を辿ることは易しくありませんが, エアハルトに関して一部の歴史家は, この活字のデザインをしたのはハンガリー人のニコラス・キシュ(1650-1702)と考えていたようです。

根拠は不明ですが, 彼が1685年に設計して彫刻したタイプフェイスを元に復刻した「Janson Text」という書体を見ると, 大まかな骨格にその類似を見ることが出来ます。また1680年頃にハンガリーからアムステルダムに移って仕事をしていることも見逃せません。彼のハンガリーでの仕事とオランダでの仕事には明確な差異があったようです。それは彼が技術的な側面と文化的な側面が異なるタイポグラフィを追及した結果であり, その見事な仕事の成果は印刷における全ての面で「文化的な先見の明」とされています。つまりそこには, 彼がしっかりとしたオランダ活字をデザインし, 彫ることが出来る人物であったことが示されているのです。

Optima〈オプティマ〉やZapfino〈ツァッフィーノ〉などの書体デザインで有名なヘルマン・ツァップ氏は, 1954年にLinotype Jansonという金属活字の制作を監修しました。これはキシュのオリジナルの彫刻がベースになっているとされています。スペクトラムやファン・ダイクのような, オランダ活字特有の無骨でガッシリとした骨格が印象的です。このキシュのオリジナル父型活字をベースにした書体とEhrhardtを比べた時, アセンダーとディセンダーに差があるものの, 全体的な印象的はとても近いと言えます。キシュの活字とは断定できないまでも, 正統派のオランダ活字と評していいのではないでしょうか。
硬質な形状と強いコントラスト。オールドスタイルローマンの中でもとりわけストイックな表情の書体ですが, それ故に, 他に取って代えることの出来ない, お気に入りなのです。