about us

身の回りにあるどんなものでも, 生活の中には必ずデザインされたものがあります。
もしくはそう謳われていない「何でもない」ものや,
どのような経緯で作られたのか分からないようなものまで,
全て意匠化(デザイン)を経て形にされています。

amplogはそのような普遍的なデザインに対して
“編集(Edit)”“意匠(Design)”“構成(Compose)”を施すことで,
身の回りにある価値を別の価値として置き換えながら,
多義的な検証を展開していくウェブコンテンツです。

あまり耳慣れない専門的なサブジェクト, 既に知り尽くされたアイデアやコンセプト,
それらをamplogの視点で再構築し,
ジャンルやカテゴリーにとらわれない創造的なコンテンツを展開していきます。

Design

03 | about Our Specimen Book

文字の可能性
書体見本の可能性

March 23, 2015

(例えばデザインの場合として)企画やアイデアを起こす時に, ある程度元になる情報や記録をサンプルとしていることがあります。それ自体がアイデアになることやデザインになってしまうこともありますが, サンプルには見本, 標本, 試料という意味の他に, 事象についての任意的な代表, と示される部分もあります。すぐにピンと来るものは飲食店の入り口に置いてあるロウで出来た“食品サンプル”や, ウェブで見られる商品のサンプル画像など。これが一般的な意味で知られている“サンプル”ですが, タイポグラフィ(タイプデザイン)に関するサンプルはそれとは少しだけ趣が違うようです。

あまり聞き慣れない“Specimen”という単語を初めて目にしたのは, 資料として載っていた『エゲノルフとバーナーの活字書体見本帳』(1592年)でした。これは1592年にドイツで初めてギャラモン活字が記された見本帳で, ここに掲載されている活字は近代の数多くのギャラモン活字のルーツになっているそうです。その見本帳に載っていた“SPECIMEN”という馴染みの無い単語こそ, タイポグラフィの中でサンプルを意味する言葉として何百年も使われ続ける言葉です。

拙作ですが, 以前オリジナルのタイプデザインをした際に, そのルーツをギャラモンと定めて使用スタイルもある程度想定してデザインしていたのですが, 『エゲノルフとバーナーの活字書体見本帳』の中で展開されているタイポグラフィがその後様々な形で撩乱していく過程を思い返し, 改めて「SPECIMEN(=サンプル)」の意味を考えるようになりました。あくまでそこに載っているのは見本ですが, その見本の活字を使い, その範疇を超えて全く想像もしないようなスタイルで紙面を演出する作品が現れ, 新しい文化を促す契機となったり, タイポグラフィという技芸のレベルを押し広げる出来事が起こっていく過去を考えたとき, タイポグラフィにおけるサンプルは標本ではなく, むしろ被験という意味合いの方がしっくりくるように感じました。この書体見本帳はあくまでも結果の一片であり, こうであるかもしれない一部である, というだけなのだと。

タイポグラフィにおける“Sample”は, おそらく清刷集のようにアルファベットを並べたのみの見本でしょう。『エゲノルフとバーナーの活字書体見本帳』に載っているギャラモン活字は, それとは一線を画す可能性が生き生きと刷られています。そう考えると, 拙作である欧文活字書体「Gaultier」にタイポグラフィとしてどのような可能性があるのか, その全てとは言えませんが, その一端だけでも示してみたいと思い, 拙作を使用して作ったのが「A SPECIMEN BOOK OF GAULTIER」です。

この書体見本帳で試験したのはレイヤーという発想です。異なるスタイルに耐えられるユーザビリティや, 制作の過程や着眼点, 書体品質についての解説, それらを階層的に振り分けた後, 紙, 仕様, 印刷などフィジカルなテクスチャーに置き換える事で, 制作した欧文書体の本質を重層的に示しています。またレイヤー間の相互作用で得られる視覚的な印象や, 和・欧文の混植による同層でのコントラストなど, 日本語組版ならではの可能性も付与しており, 純粋な欧文書体見本にはない妙が出ているのではないでしょうか。

仕上がった見本帳をどのように解釈するかは見る人次第ですが, むしろその想像力を喚起させる魅力を備えていれば, 理想的な“SPECIMEN”となっていることでしょう。